やっぱりアンチドーピング

2007年7月「e-resident」掲載~ドーピングについて

―再びアンチドーピング

わが国のアンチドーピングに深くかかわる私としても、言いたいことがいくつかあります。

前回も書きましたが、スポーツ界がアンチドーピングに真剣に取り組む理由のひとつは、「スポーツがクリーンであることを証明し、スポーツそのものを守る」ためです。

昨年、野球のWBC(ワールドベースボールクラッシック)のときに、今年からメジャーリーガーになった岩村明憲選手と、この事に関して話をした事があります。彼と始めて会ったのは、1999年にオーストラリアで開催されたインターコンチネンタルカップのとき。彼はまだヤクルトのファームにいて、身体も現在のあのムキムキな肉体とは程遠い普通の身体でした。厳しい練習と自己管理によって、プロに入ってからたくましい肉体を作り上げたのです。彼は私に言いました。

「プロ野球にドーピング検査が導入されてから、毎日の薬にも気をつけなければいけなくなったし、試合後の検査もめんどうです。しかし、もっともっとしっかりやってほしい。自分のようにドーピングとは無関係な選手たちにとっては、この鍛え上げた肉体がドーピングによるものではないことを証明することになるからです」 。

ドーピング検査を導入して2年目になる日本のプロ野球選手たちも、確かに最初は抵抗もありましたが、現在ではドーピング検査をすることにより日本のプロ野球がクリーンであることを証明できる、プロ野球や自分の価値を守る事ができる、ということを理解してくれて協力してくれています。

プロもアマチュアもスポーツであることに変わりはありません。プロスポーツは観客を集めて利益を上げることを目的としたビジネスだからドーピングをしてもよい、ということにはなりません。それを主張するのならば、「スポーツ」といわなければいいのです。スポーツというのは、ルールがあって仲間がいて競い合い高めあう、世界共通の文化です。ドーピングという「ずる」を許したら、すばらしいスポーツの価値がなくなってしまう、これはプロスポーツでも同じことです。

―時には過酷

試合後のドーピング検査がいやだと思う選手はいるかもしれません。しかしドーピング検査を拒否したら、それだけでドーピング違反として制裁が課されます。もしドーピング検査を拒む事が許されたとしたら、それはドーピング検査ではなく、ただの尿検査です。確かに、負けて落ち込んでいる選手を検査しなければいけない場合もあります。決勝で勝った選手と負けた選手が、同じドーピング検査ステーションに入ることもあります。アテネオリンピックの時、オーストラリアに負けて決勝戦に進めなくなった試合のあともドーピング検査がありました。こぼれ落ちる涙を必死にこらえているソフトボール選手のドーピング検査に付き添いました。さすがに、声をかけてあげることもできませんでした。

スポーツの世界は「結果がすべて」の世界です。想像を絶する過酷なプレッシャー・不安・緊張など、私自身もスポーツの現場で数多く体験してきました。当然そういったメンタル面のコンディショニングに関して、ドクターができること、しなければならないことはいくつもあります。

ちなみに現在、カフェインはドーピング禁止薬物ではありません。「監視物質」といって、ドーピング検査の際にチェックはしていますが、ドーピング違反にはなりません。ただし、ドーピング禁止薬物リストは毎年更新されますので、今後再び禁止薬物になる可能性はありますが…。