スポーツにできること

2009年3月「e-resident」掲載~宮崎・ワールドベースボールクラッシック日本代表合宿

―スポーツの力

先週は、ワールドベースボールクラッシック(WBC)日本代表の合宿帯同で宮崎に行ってきました。

連日たくさんのお客さんで超満員、球場に向かう道路も大渋滞。3年前のWBCでは、福岡で合宿してから東京ラウンドに乗り込みましたが、これほどのフィーバーではなかったような気がします。

いつも打撃練習のときは、外野で球を追いかけて走りまわっているのですが、さすがに大観衆の前で無様な姿をさらけ出すわけにいかないので、今回はフェンスにくっついておとなしく玉拾いをしていました。

イチロー選手がフライを取ったり投げるたびに、お客さんは拍手喝采。確かに、試合ではあのレーザービームも一回見ることができるかどうか、しかし、練習では矢のような送球を何度も見ることができるのですから、徹夜してお客さんが並ぶのもわかるような気がします。

スポーツ選手の一つ一つの動きにみんなの目が釘付けになる、きっとWBCの本番では、日本中の何千万人という人たちが、勝負に一喜一憂し、真剣なプレーに感動するのでしょう。スポーツというのは本当に大きな力があります。

いったん東京に戻った2月23日に、渋谷の国連大学で「国際平和―スポーツを通じてできること―」というフォーラムがあり、参加してきました。バルセロナで銀、アトランタで銅、と2つのオリンピックでメダルを獲得した有森裕子さんが話をされました。彼女とのアトランタオリンピックでの話は以前このエッセイにも書きましたが、昨年の夏にもテレビ番組でご一緒させていただきました。国連人口基金親善大使でもある有森さんは、現在、NPO「ハート・オブ・ゴールド」の代表として、世界各国を飛び回り、希望をもって頑張ってゆくことを人々に訴え続け、さまざまな国際貢献、社会貢献活動をされています。

―医学が目指すもの

講演では、アトランタオリンピックのあと初めて訪れたカンボジア、アンコールワット国際ハーフマラソンでの体験、1年後に再びカンボジアを訪れてみんなが1年前のTシャツを着て一生懸命走っている姿を見て「スポーツの持つ力」を実感したこと、それをきっかけにして始めた様々な社会貢献活動、カンボジアでの体育の教科書づくり、HIV/AIDS予防教育の活動、など写真を交えて話してくれました。

FGM(Female Genital Mutilation;女性性器切除)の話もしてくれました。FGMとは古くからアフリカで行われている、子供や少女の外性器を切除する風習です。皆に押さえつけられ、麻酔もせずに、不衛生な状況でFGMは行われます。術中の出血や感染などの問題だけでなく、HIV感染や、術後の直腸ろう、精神的なトラウマなど、さまざまな後遺症に女性は生涯にわたって悩まされます。そして、いまだに毎年約300万人の少女たちがその犠牲になっているというのです。貧困で犠牲になるのは、いつも女性や子供です。

その「存在」だけでも、十分みんなに勇気や希望を与えてくれている有森さんなのに、もっともっと頑張ろうとしている。本当に素晴らしいなあ。

「私の生きざまに変わりはない」

「興味を持っていない人に興味を持ってもらえるように伝えるのが私の使命」

と、熱く語る姿が印象的でした。

以前から何度も書いてきたように、喘息の子供たちを勇気づけよう、と活動をしてくれているスケートの清水選手をはじめ、「スポーツに何ができるか」を考えて実践してくれているスポーツ選手はたくさんいます。余裕がなければできないことなのかもしれないですが、とっても素敵なことだと思います。

皆さんも、ぜひ、「医学に何ができるか、医学とは何なのか」もう一度考えてほしい。もちろん目の前の患者さんを治療することはとてもお大事なことだし、それができなければ始まらないのだけれど、医学が最終的に目指すところは、やはり世界の平和なのだと思う。

私も有森さんの講演を聞いて、「スポーツに何ができるか、医学に何ができるか」をいつも考えながらしっかりやらなきゃなあ、とあらためて感じたのでした。