アジア大会と社会人野球

2006年12月「e-resident」掲載~カタール、ドーハ・第15回アジア大会

―スポーツは人を育てる

今回はカタールのドーハからです。第15回アジア大会の選手村、日本選手団宿舎の7階の野球に割り与えられた部屋の中のリビングで書いています。

初日の練習を終え、目の前のソファーには監督の垣野多鶴さんが寝そべっています。垣野さんとは1996年のアトランタオリンピックでご一緒しました。私が帯同ドクターとして始めて参加したアトランタオリンピック、帯同ドクターの役割とは何なのかを教えてもらった大会です。垣野さんはそのとき打撃コーチでした。現在は社会人野球、三菱ふそう川崎の監督さんで社会人野球の最高峰である都市対抗野球で過去3回優勝に導いた名将です。

前回、体操の具志堅監督からお聞きした「スポーツや教育の最終目標は陶冶(とうや)すること」という話をしました。「人間を育て上げる」という目標がスポーツにはあるという話です。以前から、社会人野球の指導者の方たちからも同じような姿勢をとても強く感じていました。高校を卒業したばかりの選手に対して、野球だけでなく社会人としての姿勢を教える。だから、社会人野球からプロ入りした選手たちにはすばらしい選手が多い。いわゆる「素材がすばらしい」という選手はそのほとんどが高校時代から注目されプロの誘いをうけます。逆に言えば社会人野球からプロ入りした選手は、プロが素材を見抜けなかった、もしくは素材もたいしたことがなくて、プロからの誘いも受けなかった。しかしその後「努力して力をつけた」、もしくは「社会人野球が素材を見抜いて育てた」、ということができるでしょう。

ぱっと思い浮かぶだけでも社会人野球出身かつ現在現役で活躍している選手はたくさんいます。今年も活躍したソフトバンクの松中選手、日本ハムから巨人に移る小笠原選手、WBCでも活躍したテキサスレンジャースの大塚選手、アテネオリンピックのキャプテン、ヤクルトの宮本選手、ロッテのサブマリン渡辺俊介選手、西武のベンちゃんこと和田選手、日本選手のメジャーリーグ挑戦の先駆けとなった野茂選手やヤクルトの古田監督も社会人野球出身。

皆さん、毎年夏に東京ドームで開催される都市対抗野球を見に行ったことありますか?プロ野球や高校野球とは違った独特の雰囲気、派手な応援合戦、とてもいいですよ。チーム数がどんどん減り、昔ほどの勢いがなくなってきた社会人野球ですが、間違いなく日本の野球界にとって重要な存在です。これからも応援していきたいと思います。

今年、セリーグの首位打者、MVPを受賞した中日の福留孝介選手も社会人野球からプロ入りしました。高校時代からスター選手だった福留選手ですが、日本生命で社会人野球を3年間経験。当時、日本生命にはオリンピックに3回出場し「ミスターアマ野球」と呼ばれたピッチャー、杉浦正則選手がいました。熱血漢の杉浦選手のことですから、きっと、厳しく、優しく、社会人としての心得を教えたに違いありません。

先日、初代チャンピオンになったWBCの祝賀会が行われ、福留選手と久しぶりに話しました。「自分にとって社会人野球の3年間は決して無駄ではなかった。杉浦さんには本当にいろいろなことを教えてもらった」と福留選手は言っていました。

その杉浦選手、今年から日本生命の監督になりました。これからもたくさんの、「野球のうまい、まともな社会人」をたくさん育ててくれると思います。

―いざ、アジア大会へ

さて、今回のアジア大会ですが日本選手団は900人を超える大選手団です。2年後の北京オリンピックを見据えるととても重要な大会であり、各競技団体はオリンピックと同様のトップレベルの選手たちを送り込んでいます。

わが野球チームですが今回は全員アマチュア、社会人と大学生のチームです。かたや日本のライバルである韓国、台湾は全員プロでこの大会に臨みます。特に攻撃力ではライバルの2チームに比べると劣勢であるといわざるを得ない日本チームですが、プロにはないチームワークで、きっと勝ち進んでくれるでしょう。

昨日ドーハに到着、選手村に入りましたが、カタールは飲酒が禁止されている国です。当然お酒を選手村の中には持ち込むことはできません。実際に入村するときのチェックでも、スーツケースを開けられて、紙パックのまま持ち込もうとした焼酎などはことごとくばれてみんな没収されてしまいました。本部の医務が持ち込もうとした「消毒用アルコール」さえも没収されたそうです。まあ。2週間酒抜きの健康な生活をするのもいいかもしれない。

野球は開会式の前29日から戦いが始まります。選手みんながいいコンディションで試合に臨めるようしっかり仕事をしようと思います。

きっと今回も楽しいことがいっぱいあるだろうなあ。