松田直樹選手、スポーツ中におきた突然の心臓発作

8月4日、サッカー元日本代表、松本山雅の松田直樹選手が亡くなったという悲しい知らせが届きました。

8月2日の練習中に倒れ、心肺停止状態で病院に運ばれ、その原因は急性心筋梗塞であったと報道されました。「助かってほしい」という多くのスポーツ関係者やサポーターの願いはかないませんでした。

8月2日の午後には、私のところにも多くのメディアから取材の依頼がきました。当初、夏の練習中に倒れたということで「熱中症?」という報道もありました。確かに、重症な熱中症の場合1日以内に命を落とすこともありますが、突然心停止になるということは通常ありません。ですから、松田選手のことも、詳細はわからないまでも、「おそらく熱中症ではなく突然心臓に何か起こったのではないだろうか」と感じていました。

医学的には「事故、外傷、自殺などの外因死を除く自然死のうち原因疾患発症から24時間以内の死」を突然死と定義していますが、スポーツ中の突然死は、突然死全体の1-2%であり若年者により多く、また、スポーツ中は突然死のリスクが高くなることが知られています。

今から25年前、1986年にアメリカのバレーボール代表選手であるフローラ・ハイマン選手が試合中の日本のコートで倒れ、息を引き取るという事故が起きました。1982年から日本のチームでプレーしていたハイマン選手でしたが、その死因は「マルファン症候群に伴う大動脈解離」であったと報道されました。すなわち、スポーツ中に突然おこるかもしれない心臓発作を予測しうる状態であった、ということです。以後、スポーツ中の突然の事故を防ぐための心臓検診を含めたメディカルチェックの重要性が叫ばれてきました。

また、ハイマン選手の事故は違う側面でも議論になりました。アメリカのスター選手であったハイマン選手でしたから、コートで倒れた後の一部始終が映像としてアメリカ全土に流れたのです。ところが、倒れた日本のコートでは、救急車が来るまでの間、みんな眺めてみているだけで、だれも「救急蘇生処置」を行っていませんでした。救急蘇生法があの頃日本より進んでいたアメリカの人間から見て誰も救急蘇生を行わない日本のスポーツ現場の光景は、信じられないものであったようです。以後、スポーツ現場での救急蘇生法の重要性から、講習会などでもスポーツにかかわるものすべてが持っておくべき知識として、啓発活動にも力を入れてきました。

この、「検診」と「救急蘇生法やAED」の普及により、スポーツ中の突然死は減少してきました。しかし、今回は松田選手の突然死を防ぐことはできませんでした。

「素晴らしいスポーツ、それを危険なものにしてはならない」

これは、スポーツ医学に課された使命です。スポーツ中の様々な危険を少しでも減らす努力や仕組み作りを、これからもしっかり続けていきたいと思います。